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なぜ?がなるほど!に変わる本 ― 知ればなかよし発達障害のお友達


第13回「教員・保護者向け解説 (1)発達障害とは-なぜ「告知」と「周知」なの?-」

発達障害は、2005年に施行された「発達障害者支援法」によって、日本でもずいぶんと社会に知られるようになりました。学校で、保育園で「気になる子」の存在も大きくクローズアップされるようになってきました。特に、本書で取り上げたような、いわゆる軽度発達障害と称される知的障害を伴わない発達障害、すなわち脳の機能の様々な部分に様々な程度の障害があって、一見普通の子に見えるのに、集団行動やコミュニケーション、運動や音楽といった特定の分野で極端なできにくさが現れる子どもたちの理解と支援について、現場では多くの努力が払われています。
 
そこで避けることのできない課題が、本人への障害の「告知」と周囲の人に対する「周知」の問題です。
小児医学に従事してきたこれまでの経験から言えば、子どもに何らかの疾患を診断したときには、まず、保護者あるいは本人にその疾患の存在の事実を伝え、必要なら診断書を発行してそれを学校などに持参することによって、周囲に伝えてもらう、という手だてで「告知」と「周知」は完了するのがほぼ常でした。本人への告知と周囲への周知はあくまで保護者の判断にまかせるし、それが本人の病状へ大きく影響することもありませんでした。
 
ところが、重度の知的障害を伴わない自閉症スペクトラムに属する、特に児童生徒期の子どもたちにとっては、「告知」「周知」は他の疾患と全く違う意味を持つのです。彼らの場合には、この「告知」及び「周知」をタイミングよくうまいやり方で行うことによって、その後の彼らの人生そのものを変えることができる、大げさにいってしまえば、大変有効な治療法にさえなりうるものなのです。
本人が「自分は何者か」をきちんと理解し、自分を受容していくこと。それと同時に周囲のすべての人間が「彼(彼女)はこういう人間だ」とありのままを理解し、受容していくこと、そして自然な形で支援ができること。
 
これによってこのカテゴリーに属する子どもたちにおいて、時に大きな問題になりがちな「不安」を軽減することができ、自信を持って自分の個性を主張できるようになる。実際に私はそんな事例を多く経験してきました。
医学的には、原因も不明で根本の治療法が未だに見つかっていない発達障害ですが、その子どもをとりまくすべての人々が、「告知」「周知」によって同じ情報と知識を共有することによって、最も理想的な環境を提供することが出来うるのです。そういう意味で、私たち医師にとっても、これまでの医療の枠を超えて、様々なジャンルの人々と連携を取りながら広い意味での治療に取り組まなければならない、まだまだ学ぶことの多い疾患カテゴリーだといえるのです。
 
本書は、主に小学校高学年以上の児童生徒に対して発達障害を「周知」するため、また本人が本人を理解する「告知」のための教材として用いていただくことを目的にして書かれています。子どもをターゲットにしているので、平易な言葉とイラストを多く用いて簡略に書いているため、以下に補足としての発達障害に関する解説を述べたいと思います。
 
まず、一番に述べなければならないことが「発達障害って何?」ということです。実はここに一番の混乱があるのです。
 
「発達障害」は、医学的な診断名ではなく、あくまでカテゴリーの名前です。2013年に米国の精神科学会が定める基準が改定され、これまで広汎性発達障害、自閉症、アスペルガー障害などの名称がつかわれていた群が、「自閉症スペクトラム障害(ASD)」という名称で統一されました。「社会的な相互関係とコミュニケーションの障害と常同性の保持への固執が様々な程度に存在することにより、社会生活が様々な程度に障害される状態」と定義されます。
今後は徐々にこの概念が浸透していくものと思われますが、現在日本では先に述べた「発達障害者支援法」で謳われる「発達障害」という言葉があるため、教育現場などでも慣用的に発達障害という呼び方をする場合が多いと思われます。本文にも書いてありますが、こういう子どもたちは医療機関を受診すると、「(高機能)自閉症」「ADHD(注意欠陥多動性障害)」「LD(学習障害)」「広汎性発達障害」「アスペルガー障害」、そして今後は「自閉症スペクトラム障害」など様々に診断されます。医療従事者の間でもはっきりとしていない概念なので、診断する医師の考えによっても、診断名が変わってきたりして、それがまた教育現場や保護者の混乱を引き起こしています。
 
本書では、診断名にはこだわらず、「脳の働きの違い」のある子どもたちとして一括りにしています。なぜなら、診断名が「LD」であっても「広汎性発達障害」であっても、彼らの脳が先天的に発達にアンバランスさがある機能障害である、という共通項があるからです。これが、発達障害、という単語の意味です。誤解していただきたくないのは、「発達しない」のではなく「発達のアンバランスさが先天的に存在する」状態であるということで、どんな子どもでも必ず脳は生後の環境要因で発達します。その発達が少しでも良い方向に導けるように本書を活用していただきたいというのが私の願いです。